第119(定期)教区会 開会演説
主教 アンデレ 大畑 喜道
本日は休日にも拘らず東京教区のためにお集まり頂き本当にありがとうございました。心から感謝申し上げます。今回の教区会は来年度に向けての各委員会の計画と予算などが主なものとなります。この一年の働きを神に感謝しつつ、これからの教区の歩みについてご一緒に意見の交換をしていくことができたらと思います。 《なぜ宣教するのか》 私たちが宣教する目的は何でしょうか。すべての人が神に選ばれ、愛されている喜びを実感し、すべて神によって創造された人々とともに人生の旅路を生き抜いていくことにあります。アンデレホールの入り口に聖アンデレの木彫があります。舟越桂という著名な作家の作品ですが、彼は「個人はみな絶滅危惧種」という本を出しています。「私たちはみんな絶滅危惧種だ。」自分なりにこのことを考えてみると重要なことに気づかされます。私たちはそのままでは滅び行く存在であるにもかかわらず、神によって生かされている。一人一人の違いがあり、固有の存在として大切にしあいながら生きている。その根底には神が、独り子を賜るほどに私たちを大切な存在として見守り、見えない力によって支えてくださるがゆえに絶滅を免れているという事実があります。しかし大きな神の愛によって包まれて生きている存在であるにも拘わらず、お互いを大切にし合えない現実があることも事実です。パレスチナではイスラエルとガザ地域の間の戦闘によって多くの犠牲者が出ました。幸い停戦合意が成立しましたが、いつまた悲劇的な状況が繰り返されていくか分かりません。パレスチナに限らず世界中で起こっている平和が脅かされている現実。犠牲になっているのは弱く小さくされた方々のことを思うと胸が痛みます。それは海の向こうの話ではありません。自分の生活を守るために人を踏みつけにし、押しつぶしていくような動きがたくさんあります。英国聖公会総会は、11 月20日に女性主教を認める議案を否決しました。主教、聖職、信徒の3院で、それぞれの三分の二の賛成が必要ですが、信徒票が3分の2に達せず、結果として否決ということになりました。女性主教に関する議論は、2015 年の次期総会まで棚上げとなります。様々な課題を世界の諸教会が抱えています。それに対して多くの教会が、人々が立ち上がり、たとえ小さな働きであったとしても頑張っています。そのために自分は何ができるかをしっかりと神との対話の中でつかんでいくことが大切です。東京教区のみならず、神によって招かれた一人ひとりが、神の愛を悟り、赦し合い、常に喜びのうちに成長していくことを祈り求めます。神によって生かされている。この喜びを共有していくこれが宣教の基本であり、その大元をしっかりとつかむことが肝要でしょう。 《日本聖公会の現状・教区の現状》 今年は管区で宣教協議会が開催され、それが十分に生かされるために、プレ宣教協議会や、教区の宣教を考える会が何度も行われました。教会のことだけを考えても信徒の高齢化、聖職不足、財政問題。数え上げれば多くの重い課題があります。平和を希求しながらも世界中では神の思いとはかけ離れた事態が起こっています。 日本聖公会や東京教区の現状については、すでにいくつかの報告書が出されています。東京教区では「プレ宣教協議会の報告書」「各教会の宝物の発見のアンケート結果」を信徒の数だけ配布しました。宣教協議会では「日本聖公会〈宣教・牧会の十年〉提言」を出しました。今日は皆様にこの提言を再度お配りしています。これらを見ての感想として、当たり前のことではないかと思われた方もあるかもしれません。何十年も前から言われていたことであるかもしれません。教会の基本やあるべき姿に立ち帰ることこそが、この危機的状況の世界にある教会に今必要なことです。「日本聖公会〈宣教・牧会の十年〉提言」の表題だけを読み上げます。そこに付随している事柄の一つ一つも大変に重要な事柄を述べていますので、後で配布資料をじっくりと読んでいただきたいと思います。これをもとに具体的な方策の策定などのために、意見交換の場や実践をしていきましょう。宣教協議会の結果として出されてきた5つの提言は以下の通りです。 1、み言葉に聴き、伝えること〈ケリュグマ〉 2、世界、社会の必要に応え仕えること〈ディアコニア〉 3、生活の中で福音を具体的に証しすること〈マルトゥリア〉 4、祈り礼拝すること〈レイトゥルギア〉 5、主にある交わり、共同体となること〈コイノニア〉 単なるお題目にしてしまうのか、しっかりと実践できるのか。そのためにはまず、それぞれの場面でこの言葉を自分の言葉として翻訳しなおす作業をすることが大切です。そして実際の活動の指針としていきましょう。先に提示した全聖公会の5指標とも根本的なことは同じことであろうかと認識しています。きわめて原則的、根本的なことです。教会の働きにはすぐに効果が表れるような処方箋などはありませんが、これらの教会の働きにとって重要なことを確実に実践していくことで、東京教区は神の栄光を表す器となっていくと確信しています。 さて東京教区も財政の問題や人的な問題は極めて深刻であるといわざるを得ません。教役者議員の表をごらんになると分かりますが、東京教区には現在34 名の司祭と2 人の執事、4人の聖職候補生と伝道師、そして勉学中の1 名の聖職候補生がいます。しかしそのうち、立教学院に3 名、立教女学院と香蘭女学校に各1 名、学校関係や施設に3名の合計8名の方々が教会外で働いておられます。実際に教会の牧師として奉仕しておられる司祭は26 名です。様々な苦心をし、退職の司祭にもご協力をいただいてどうにか毎週の聖餐式を捧げられています。しかし今後はどうしてもそれも叶わない状況になりつつあります。数年すると次々と聖職が退職されます。もちろん健康であれば、退職後も教区の働きのために尽力いただきたいと願っていますし、聖職候補生として志願される方々が皆無ではないことは嬉しいことです。しかし傾向としては、現職として責任を負っていかなければならない数はますます減少傾向にあります。定住の教役者を教会に置くことができない状況を一朝一夕に解決させることは非常に難しいことであると言えます。牧師の数が少ないということは、東京教区だけの問題ではありません。他教区との協力、協働も念頭に置かなければなりません。そんな状況であるからこそ、私たちは信徒も教役者も意識の変革をしていくことがどうしても必要になります。 神によって喜びを与えられ、召し出された私たちが、一人ひとりが各々の能力、賜物を生かしあって力をあわせていくことが何としても必要です。自分だけでどうにかしていこう、隣の教会のことなども考えられないというのではなく、私たちは協力し合い、一致団結していくことが求められています。 《これからやろうとしていること》 ・新しい教会体制 基本は、昔も今もそんなに変わっているわけはありません。長い目で見れば、原則をしっかりと見つめて固めることの重要性を認識いたしましょう。やらなければならないことはたくさんあります。何もかも大事なことです。しかしあれもこれもを少ない人数でこなしていくことは不可能です。しかも根本がしっかりとしていなければぐらついてしまいます。しかしできることは早急にしていかなければなりません。東京教区の十年後のために今から私たちがなすべきことを整理統合していくことは不可欠なことでありましょう。バネは伸びきってしまったらその力を十分に発揮することはできません。十年後の飛躍のためにしっかりと地盤固めをしなければなりません。どのようなことに重点を置いていこうかということについてお話します。 昨年から高橋顕司祭にはきわめて異例ですが、二つの教会の牧師をしていただきました。まだこのことによって起こった具体的な評価をするには時間経過が少ないかもしれません。実際に二教会の皆さまの声を共有する時間も場もまだ十分にはありませんが、しかし意識の変化ということでは大きな影響があったように思います。宣教の担い手は誰でもない、私だという意識を信徒の皆さんも持っていてくださることに感謝しています。この二つの教会の働きに励まされながら、教区全体が、信徒とは何か、司祭の責任と職務とは何かということをしっかりと確認しないといけないのだ、そして夫々の役割を的確に果たしていく芽生えを自ら作っていきましょう。定住の教役者がいないから駄目だということから、何をすることによって、その危機的という状況から抜け出していけるかを真剣に問い続けていかなければなりません。 ・教育の充実 前述の提言の遂行や教会の新しい宣教体制の実施のために教育は重要な事柄です。教区の一貫した教育ビジョン、世代別、あるいは分野別の教育プログラムの策定、実施などが急務です。そのために主教座聖堂を中心として計画を推進していきたいと考えます。宣教主事の呼びかけで、教区の教育に関する部門の委員長が非公式に会合を重ねています。主教座聖堂でも十年後の教区を見越して、すでに信徒講座などを開催しております。これが私たちの意識変革、自分は何をすべき存在として神に召し出されているのか、今自分は何をしていくことができるかを明確にしていく端緒になろうかと期待しています。司祭とは何をすべき存在であるのか、それに向かって日々の営みをどのようにしていくのか。信徒とはどうであるべきなのか。明確にし、実践していく必要があります。たとえば現在、教区には信徒奉事者が80有余名もいます。しかし今、信徒奉事者は何をする人か、何ならできるのかが不明確です。積極的に基本的なキリスト教の神学を学んでいただき、礼拝の中の奉仕も、奨励を行うことができるようになったり、信徒訪問をすることができるようになったりしていただきたいと考えます。必ずしも聖職としての道ではなく、信徒としての召命の実践です。あるいは聖職として召し出されていることに気づかされる人もその中から出てくるかもしれません。 ・教区の委員会制度の検討、整理 これらの実践のためには法的整備も含めて考えなければなりません。教区の機構改革、最終的には施行規則や管区の法規の改正の提案も必要でしょう。東京という狭いエリアに多くの教会があります。協力して様々な活動を行うことが可能な教区です。こうして教区会を年に2 回、宿泊することなく開催できるのは大きなお恵みです。このお恵みを有効に活用するためには選択と集中が必要なのです。今までのことを振り返ってみると少し拡散傾向にあったように思います。協力してできるところはできる限り協力し合いながら、機能的にしていきましょう。そのためには今は教区の活動計画の縮小や選択をしていくことも必要になってくるでしょう。 ・教会グループの再編も視野に入れて各教会が5つの提言のすべてをなしていこうとすると無理が生じる場合があります。そのために虻蜂取らずになってしまったらいけません。先の教区会では一つの家族としての教区ということを意識して、ローマの信徒への手紙の12 章4節「わたしたちのひとつの体は多くの部分から成り立っていても、すべての部分が同じ働きをしていないように、わたしたちは数は多いが、キリストに結ばれて一つの体を形作っており、各自は互いに部分なのです。」というみ言葉をはじめに提示させていただきました。これから近隣の教会との協力が必要になります。たとえば、聖書研究や家庭集会を1教会だけで行うのではなく、複数の教会で行うなど。そのためには現行の教会グループの再編も視野にいれていく必要があるでしょう。また礼拝時間を都合しあって、合同の礼拝や午前午後の礼拝を行うということも考えられます。そのためにはまず各教会のビジョンや得意分野が明確に認識しあえなければなりません。信徒が自分の教会のビジョンとそれに対して何が必要なことか、それをしっかりと把握しなければ協力のしようもありません。先に出された各教会の宝物のアンケートなどをもとにもう少し進めてこの分野では、協力し合おう、これはこの教会に頼るけれどもこの問題は自分たちが担う。そのような動きになってくれればと願います。 また一人一人が宣教の担い手であるということは、対等なパートナーシップを持つことであり、ジェンダーの平等を保障しなければなりません。できることからまず意識的にはじめなければなりません。代議員の男女比の問題もそうです。もちろん、選挙で選ばれるのですが、以前にこのような話し合いがなされた直後は女性の参画も増加しました。常に意識しないでいると減少傾向になります。次期教区会での激変を期待します。 《教役者動静》 最後に教役者の動静ついてお話します。4 月からの人事に関してはまだ発表することはできません。教会グループの再編も視野に入れて徐々に人事を進めていくつもりです。皆様にお知らせできる範囲のみお伝えしたいと思います。11 月には長い間、東京教区に在籍され、神戸国際大学学長として奉仕された遠藤雅己執事が神戸教区に移籍されました。ご活躍をお祈りしています。また大変に喜ばしいことですが、聖オルバン教会に今般米国聖公会ミネソタ教区のウイリアム・ブルソン司祭を牧師として招聘することができました。今後のお働きを期待します。また朴美賢司祭は出産のために一時教会の働きから離れます。無事に出産の恵みにあずかることができることを祈ります。教区事務所でお手伝いをしていただいています高柳章江さんが聖職への召し出しを受け、聖職候補生の志願を出され、聖職候補生志願者 となられました。今後の霊的旅路のために見守りの期間を実り豊かに過ごしていただきたいと思います。退職された福澤道夫司祭は現在病気加療中です。神様の癒しのみ手を求めます。皆様のお祈りをお願いします。 危機的だ、絶望的だと諦めるのではなく、今私たちが変革することで、大きな希望が与えられている。福音宣教の大きな担い手として、すべて主を信じる者が成長していくことができるように、教区の皆さまが互いに一致と協力していくことを願いつつ開会の説教とさせていただきます。ご静聴ありがとうございました。